パイの実を語る上で欠かせないのが、あの独特のサクサクとした心地よい食感です。この食感を生み出しているのが、丁寧に折り重ねられた「64層」のパイ生地です。しかし、なぜ32層でも128層でもなく、64層でなければならなかったのでしょうか。
パイ生地は、小麦粉の生地と油脂(マーガリンやバター)を幾重にも折りたたんで焼き上げることで、油脂の水分が蒸発し、生地の層を押し広げて独特の膨らみを作ります。開発過程において、技術陣は32層、64層、128層、さらにはそれ以上の層数で徹底的な試作と官能評価を繰り返しました。その結果、次のような物理的・食感的な課題が浮き彫りになりました。
層が32層と少なすぎる場合、生地の立ち上がりが厚くなりすぎてスナック菓子らしい繊細なサクサク感が失われ、固いビスケットに近い口当たりになってしまいます。一方で、128層やそれ以上に層を増やしすぎると、一口サイズの小さな空間では層同士がくっついてしまい、焼き上がりの膨らみが悪くなって内部にチョコレートを充填するスペースが確保できなくなります。
軽快な歯触り、心地よい崩れ感、そして内部のチョコレートとの絶妙な融和。このすべてを一口サイズ(約4.3g)の中で極限まで高める物理的限界値こそが、計算し尽くされた「64層」でした。表面に施されたツヤ出しの糖衣(カラメリゼ)が焼成時に香ばしさを生み、噛んだ瞬間に64層が一気に砕け散る感覚は、精密な工学設計の賜物といえます。