ネット上のコミュニティやSNSで毎シーズン繰り返される「ワクチンを打ったのに普通に感染した、効かないのではないか」という書き込み。この不信感の背景には、ワクチンの「発症予防」と「重症化予防」という2つの異なる概念の混同が存在します。
インフルエンザワクチンは、麻疹(はしか)ワクチンのように「感染そのものを99%近く遮断する」タイプの製剤ではありません。呼吸器感染症であるインフルエンザのウイルスは、鼻やのどの粘膜(上気道)から侵入します。皮下接種によって誘導される血中IgG抗体は、肺や全身の臓器でのウイルス増殖を抑える力には長けているものの、鼻粘膜表面(局所分泌型IgAが主に担当)での侵入を完全にシャットアウトすることは困難です。
厚生労働省の研究班による大規模調査では、ワクチンの発症予防率は健康な成人でおよそ50〜60%と報告されています。つまり、接種した人の半数程度は発症自体を防ぐことができますが、残りの半数はウイルスが粘膜で一定以上増殖し、発熱や咳などの症状が出現する可能性があります。
ワクチンの本領は、ウイルスが血流に乗って全身へ広がり、肺炎やインフルエンザ脳症といった致命的な合併症を引き起こすのを食い止める「重症化予防効果」にあります。感染して38度台の発熱が出たとしても、ワクチン未接種であれば40度超の高熱が数日続き入院に至るケースが、接種済みであれば2〜3日の微熱や軽症で速やかに回復に向かうという臨床的な恩恵をもたらします。