怪盗キッドというキャラクターがこれほどまでに長く、世代を超えて愛され続ける最大の要因は、山口勝平氏が吹き込む「軽妙さと色気の絶妙なブレンド」にあります。白亜のシルクハットにマントを翻し、警察や探偵を手玉に取るキザなペテン師でありながら、ふとした瞬間に高校生・黒羽快斗としての人間味が垣間見える。この絶妙な揺らぎこそが、視聴者を惹きつける引力となっています。
アフレコ現場の証言や過去の公式特番インタビューにおいて、山口氏は怪盗キッドを演じる際のアプローチについて「新一よりもトーンを半音から1音落とし、言葉の語尾に余韻を残す息(ブレス)を混ぜている」と明かしています。少年漫画の王道ヒーローを数多く演じてきた山口氏本来の突き抜けるようなハイトーンではなく、意図的に抑制された艶やかな低音。これによって、非日常の象徴である「怪盗」のミステリアスな佇まいが完成します。
ファンの間で今なお語り草となっているのが、記念すべき初対決(アニメ76話「コナンVS怪盗キッド」)での名セリフです。
「怪盗はあざやかに獲物を盗み出す創造的な芸術家だが…探偵はその跡を見て難癖をつけるただの批評家に過ぎねぇんだぜ」
このセリフの収録時、山口氏は原作の持つ研ぎ澄まされたダンディズムを損なわぬよう、あえて感情を過剰に昂らせず、コナンを見下ろす冷徹さと不敵な笑みを声の響きだけで表現したと述懐しています。また、劇場版『世紀末の魔術師』における「また会おうぜ名探偵、世紀末を告げる鐘の音が鳴り止まぬうちに…」という名フレーズも、テスト段階からスタッフ陣を唸らせる完成度を誇っていました。原作のテキストを山口氏特有の滑らかなイントネーションで昇華させた瞬間、文字は血肉の通った生きたセリフへと昇華したのです。