秋の宮温泉郷の奥座敷に位置する稲住温泉は、かつて白樺派を代表する作家・武者小路実篤や志賀直哉など、名だたる文人墨客が逗留した由緒ある温泉旅館です。敷地内には武者小路実篤が設計に関わり、長期滞在しながら執筆活動に没頭した離れ「天の川」が現存し、昭和の薫りを色濃く残す文化遺産としての価値を誇ってきました。
しかし、施設の老朽化や地方旅館を取り巻く経営環境の変化により、2014年に惜しまれつつ閉館。約1万坪におよぶ広大な庭園と名泉の灯が消えかけた瞬間でした。この歴史的景勝地の危機に名乗りを上げたのが、全国で「雪月花」や「深山桜庵」などを展開する共立リゾート(共立メンテナンス)です。
同社は、昭和の名建築が持つ数寄屋造りの風格や庭園美、文豪の足跡を最大限に尊重しながら、耐震改修と最新の快適設備を施すフルリノベーションを敢行。2019年11月に「湯けむりの宿 稲住温泉」として再生オープンを果たしました。単なる建て替えではなく、歴史的意匠と現代のプライベート空間を巧みに調和させた再生モデルは、観光再生の成功事例として業界内外から高い評価を得ています。