二の鳥居をくぐり、緩やかな石段を登って山王神社の境内へ足を踏み入れると、圧倒的な存在感を放つ2本の巨大なクスノキ(長崎市指定天然記念物)が視界に飛び込んできます。
被爆当時、樹齢数百年の大楠は炸裂した熱線によってすべての葉と枝を焼き尽くされ、幹は黒焦げの炭化状態となりました。関係者の手記や当時の住民証言によると、「この木は完全に枯死し、二度と芽吹くことはない」と誰もが諦めていたといいます。しかし、被爆から約2年後の1947年春、黒く焼損した巨木の幹から青々とした新芽が奇跡的に萌芽しました。草木も生えないと言われた焦土のなかで芽吹いた緑は、打ちひしがれていた被爆者たちに計り知れない生きる希望を与えました。
境内奥にあるクスノキの巨躯には、いまも原爆の炸裂片や熱線で空洞化した痕跡が痛々しく刻まれています。樹木医による外科的手術や土壌改良、支柱補強などの手厚い保全処置が施されており、初夏には力強い新緑の葉を繁らせます。木々が風に揺れて奏でるざわめきは環境省「残したい日本の音風景100選」にも認定されており、長崎出身のシンガーソングライター・福山雅治氏の楽曲『クスノキ』のモチーフとなったことでも全国的に知られています。