「世の中で最も画数の多い漢字をご存じですか?」という問いに対し、漢字愛好家や研究者が真っ先に挙げる文字が存在します。それが、合計84画という途方もない筆数を誇る「たいと(だいと / おとど)」です。
この文字の構造は極めて暴力的ともいえる構成をしています。「雲」という漢字を3つ組み合わせた「䨺(たい)」を上に配置し、その下に「龍」を3つ組み合わせた「龘(とう)」をドッキングさせた合字です。文字全体で雲が3つ、龍が3つひしめき合っており、原稿用紙のマス目に収めることすら物理的に困難な密度を誇ります。
なぜこのような怪物が生まれたのか、その由来と経緯には複数の仮説が存在します。第一の有力説は、昭和30年代に法務省の戸籍関連資料や電話帳に登録されていたとされる「極めて珍しい日本人の苗字」説です。辞書編纂の権威である大修館書店の『大漢語林』や『大漢和辞典』の補巻にも採録されており、証拠として残る資料には「実在した苗字」として記録されています。
しかし、近年の戸籍電子化や民俗学的な追跡調査では、現在この苗字を名乗る当事者の生存は確認されていません。文字学者の見解や専門誌の検証取材によれば、江戸時代から明治初期にかけての文人や職人が、龍が雲に乗って天へと昇る吉兆を表すために考案した私家版の苗字、あるいは言葉遊び(戯れ文字)がルーツである可能性が濃厚とされています。