ネット上の情報では「大型犬で性格がおとなしい種類を選べば初心者でも簡単」という言説が散見されます。しかし、これは危険なミスリードです。大型犬における「温厚さ」と「飼育の容易さ」は全く別の概念です。
第1の盲点は、パピー期(子犬期)から成犬に至るまでのギャップです。生後6ヶ月で体重はすでに15〜20kgを超えますが、中身は未熟な子犬そのものです。興奮して甘噛みをしただけで人間の腕に青あざができ、じゃれついて飛びつけば成人男性でも転倒します。30kgの体を力任せに制御することは不可能なため、引っ張り癖(リーダーウォークの未習得)を放置すれば、散歩中に他犬や猫を見かけた瞬間、飼い主が引きずられて骨折する重大事故に直結します。
第2の盲点は、ハイシニア期(10歳以降)に待ち受ける重介護です。小型犬であれば片手で抱えて動物病院へ連れて行くことができますが、自力歩行ができなくなった35kgの大型犬の介護は、人間の大人を介護するのと同等の肉体的負担を伴います。床ずれ防止のための2〜3時間おきの寝返り補助、大型ペットカートの導入、排泄介助など、家族全員の連携なしには家庭内介護が破綻します。
獣医師へのヒアリングによると、近年増えているのが医療費の支払いに窮するケースです。動物医療における薬の用量や麻酔薬、点滴の量は「体重換算」で決定されます。小型犬(3kg)の10倍の体重を持つ大型犬(30kg)は、抗生剤や抗炎症薬の処方費、予防薬(フィラリア・ノミダニ)の費用も単純に小型犬の3倍から5倍に跳ね上がります。胃捻転胃拡張症候群(GDV)などの緊急手術となれば、1回の手術で50万〜80万円の請求が発生することも珍しくありません。