森ビルの発展を牽引した森稔氏の経歴は、日本の都市再開発史そのものです。東京大学文学部を卒業後に父の会社へ入り、地権者との粘り強い交渉を重ねて数々のヒルズシリーズを具現化しました。2011年に稔氏が会長へ退き、2012年に逝去すると、森ビルは大きな歴史の転換点を迎えます。
3代目社長に就いたのは、創業家出身者ではなく、生え抜きの技術系幹部であった辻慎吾現社長でした。辻氏は東京大学大学院工学系研究科を修了後、1985年に森ビルへ入社。六本木ヒルズの現場責任者やタウンマネジメントの構築に深く関わり、稔氏の右腕として絶対的な信頼を得ていた人物です。
創業家の強烈なトップダウンから、高度な専門性を持つ組織経営への移行は見事に成功しました。辻社長は「都市を創り、都市を育む」という森稔イズムを継承しながら、財務基盤の健全化とグローバル基準の都市開発を同時に加速させています。