安城市歴史博物館の常設展示室を語る際、絶対に外せない存在がある。「人面文壺形土器」だ。この資料は2016年(平成28年)に国の重要文化財に指定されており、同館の収蔵品の中でもまぎれもなく最高位に位置する逸品である。
人面文壺形土器とは、縄文時代に製作されたとされる土器で、壺の表面に人の顔を模した文様が施されている。こうした造形は全国的にも希少であり、当時の人々の精神性や祭祀文化を示す一次資料として、考古学・民俗学の双方から高い評価を受けている。単なる「古い器」ではなく、当時の人々の世界観を現代に伝える「語り部」と表現した方が正確だろう。
常設展示室の構成は、原始古代から現代までという壮大な時間軸にそって展開される。矢作川流域という地理的フレームを軸に、安城市域および西三河における農耕文化の発展、中世の城郭と武士社会、江戸期の農業用水と農村生活、明治以降の近代化——といった各時代のハイライトが、実物資料・複製・パネル展示を組み合わせた見やすいレイアウトで紹介されている。
訪問者からよく聞かれる感想として「思っていたよりずっと内容が濃い」というコメントがある。それは、安城市がかつて「日本デンマーク」と称された農業先進地域であった事実、農業用水の整備史、そして昭和の産業化に至るまでの流れが、地域固有の文脈で丁寧に解説されているためだ。県外からの来館者にとっても、「西三河という地域がいかに日本史の中で独自の役割を果たしてきたか」を実感できる展示になっている。