発達障害(自閉スペクトラム症:ASD、注意欠如・多動症:ADHDなど)のある人に対して、いくら大声で叱責したり注意を重ねたりしても行動が改善しない背景には、認知機能と脳科学的な明確な理由が存在します。臨床心理学および小児神経学の知見から、指示がすれ違う3大要因を整理します。
第一に、「ワーキングメモリ(作業記憶)の容量と聴覚情報処理の特性」です。ADHDの特性を持つ人はワーキングメモリの保持が難しく、「片付けをして、手を洗ってから、プリントを出して」といった連続した指示を受けると、最初の指示を実行している間に後続の指示が頭から抜け落ちてしまいます。また、ASDの特性を持つ人は言葉の文字通りの意味を処理することに長けている反面、文脈や言外のニュアンス、早口な音声指示を瞬時に解釈することが苦手な傾向にあります。
第二に、「否定形指示の認知的トラップ」です。「走らないで」「騒ぐな」という否定表現を聞いた際、脳内ではまず「走る」「騒ぐ」というイメージが再生され、その後に「打ち消し」の処理が行われます。衝動性のコントロールが難しい発達特性児・者にとって、否定された行動そのものが強くインプットされ、結果として禁止された行動をそのまま誘発してしまうのです。
第三に、「抽象表現に対する解釈の曖昧さ」です。「ちゃんと」「きれいに」「静かに」「適当に」といった形容詞や副詞は、人によって定義が異なります。「ちゃんとして」と言われても、具体的に「体を静止させること」なのか「前を見ること」なのか「作業を再開すること」なのかが理解できず、フリーズしてしまうのです。