片倉館の真の価値を理解する上で外せないのが、製糸業で一代にして世界のシルク市場を席巻した片倉財閥と二代目・片倉兼太郎の存在です。大正期、欧米各国の産業視察に赴いた兼太郎は、チェコのカルロヴィ・ヴァリをはじめとするヨーロッパのクアハウス(温泉療養施設)で、労働者や地域住民が誇り高く心身を癒やす姿に深い感銘を受けました。
「製糸工場で懸命に働く女性従業員たちや諏訪の地域社会に、日本一の近代的な保養施設を提供したい」――その強い信念のもと、当時としては天文学的な私財を投じて建てられたのが片倉館です。単なる銭湯ではなく、上流階級のサロンと大衆福祉の統合を目指したこの建築群(浴場棟・会館棟・渡廊下)は、2011年に国指定重要文化財に指定されました。
入浴だけでなく、隣接する会館棟の見学も必見です。事前予約や公開時期に応じて実施される片倉館 会館棟ガイドツアーや館内自由見学では、職人の手彫りによる装飾天井、戦前のステンドグラス、諏訪湖を一望できる2階の大広間など、贅を尽くした大正ロマンの建築美を間近で観察することができます。