扉を開けて大浴場に足を踏み入れると、幅4m、長さ7.5mというプールのような大湯船が目に飛び込んできます。大人が足を踏み入れると、お湯は胸元近くまで達します。この片倉館 千人風呂の深さ(約1.1m)と、底面一面に敷き詰められた黒く丸い玉砂利には、当時の最先端を行く確固たる保養・医療思想が込められています。
片倉館で立ち湯が採用された理由の根幹には、全身にかかる静水圧の活用があります。水深が深くなるほど体にかかる水圧は増大し、下半身に滞りがちな静脈血が心臓へと力強く押し戻されます。これに40〜41度前後の上質な源泉熱が加わることで、短時間の入浴でも全身の末梢血管が拡張し、驚異的な血行促進効果をもたらす仕組みです。
さらに浴槽の底部には、選りすぐりの天然玉砂利が隙間なく敷き詰められています。入浴者が湯の中でゆっくりと歩を進めるたび、自重と水圧の絶妙なバランスによって足の裏のツボが心地よく刺激されます。この「水圧×熱×足裏刺激」の三位一体こそが、激務に耐える製糸労働者の筋肉疲労を取り除き、冷房や長距離移動で足元が冷えがちな現代人の自律神経を整える、千人風呂ならではの至福のメカニズムです。