水生哺乳類であるカモノハシの身体には、他の哺乳類ではまず見られない特異な機能が凝縮されています。その代表格がカモノハシの母乳の出し方と特徴です。
カモノハシには乳首が存在しません。ではどのようにして子供を育てるのかというと、腹部の左右にある変形した皮脂腺から、汗が滲み出るように母乳を分泌させます。腹部の毛を伝って滴り落ちたミルクを、孵化した赤ちゃんが直接舐め取るという非常に原始的な授乳スタイルをとっています。
ここで大きな疑問が生じます。土や泥、水生細菌だらけの環境で皮膚から滲み出たミルクを舐めれば、未熟な赤ちゃんが重篤な感染症にかかる危険はないのでしょうか。オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)などの生化学研究チームが母乳成分を詳細分析した結果、カモノハシの乳汁中には「シャーリー・テンプル構造」と呼ばれる前例のない三次元立体フォールドを持つ強力な抗菌ペプチド(タンパク質)が豊富に含まれていることが判明しました。露出した皮膚の上で授乳しても雑菌の繁殖を完璧に防ぐ、驚異的な化学的防御壁が備わっていたのです。
さらに世間を驚かせるのが、カモノハシの生態と毒の真相です。オス成体の後ろ足のかかと部分には、鋭利な角質の「蹴爪(けづめ)」があり、ここから強力な神経毒を分泌します。
- 毒を分泌する理由:外敵から身を守るためではなく、主に春の繁殖期における「オス同士の激しい縄張り争い・交尾権の奪い合い」に使用される。
- 毒の成分構成:ディフェンシン様ペプチド(DLP)、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)、ヒアルロニダーゼなど、80種類以上の生理活性タンパク質が複雑にブレンドされている。
- 人間への影響と危険度:健康な成人男性を死に至らしめる致死性はないものの、刺された瞬間にモルヒネなどの一般的な鎮痛剤が一切効かないほどの激烈な激痛を引き起こす。患部は急速に腫れ上がり、痛覚過敏が数ヶ月にわたって持続した症例も医学界に報告されている。
クチバシもまた、鳥類の硬い角質とは根本的に異なり、柔らかなゴムのような感触を持つ皮膚で覆われています。このクチバシ表面には約4万個の電気受容体と約6万個の機械受容体がびっしりと並んでおり、水中で目を閉じ、耳と鼻の穴を完全に塞いだ状態でも、獲物が動いた際に発生する微弱な生体電流を感知して狩りを成功させます。レーダーとソナーを兼ね備えた、生きたハイテクセンサーそのものです。