赫刀も通じず、太陽光も克服した鬼化炭治郎を物理的に倒す術は、もはや存在しませんでした。彼が人間に戻れた決定的な理由は、「生物学的特効薬」と「精神世界における強い自我と絆」という2つの要因が完璧に合致したことにあります。
物理的な要因となったのが、栗花落カナヲが命懸けで投与した「人間返りの薬」です。この薬は、胡蝶しのぶと珠世が共同開発したもので、禰豆子に使用されたものの予備としてしのぶからカナヲへ託されていました。カナヲは残された片目の視力を失うリスクを冒し、「花の呼吸・終ノ型 彼岸朱眼」を発動。炭治郎の猛攻を掻い潜り、その肉体へ薬を直接注入することに成功しました。
そしてもうひとつの決定打が、第203話「数多の手」で描かれた炭治郎の内面世界での闘いです。炭治郎の意識下で無惨は、「お前は私の意志を継ぐ者だ」「外に出ても誰も許してくれない」「お前だけが生き残るのか」と執拗に罪悪感を刺激し、甘言と脅迫で引き留めようとしました。
しかし、背中を押し上げる亡き家族や仲間たちの温かい「無数の手」、そして現実世界で必死に呼びかけ続ける禰豆子、善逸、伊之助らの涙の叫びが炭治郎の自我を呼び覚まします。無惨の独善的な執着を完全に拒絶した炭治郎は、光射す水面へと浮上し、奇跡的に人間の姿へと戻ることができたのです。