病状が進行するにつれ、息切れの次のステージとして現れるのが「失神(意識消失)」と「狭心症に酷似した胸痛」です。肺高血圧症において失神と胸痛が引き起こされる機序は、心臓の構造的な限界点と直結しています。
肺動脈の圧力上昇に対抗し続けるうち、右心室の筋肉は過剰に肥大し、やがて血液を十分に送り出せなくなる「右心不全」へと陥ります。この極限状態の右心室は、運動時に必要な心拍出量を瞬時に増やす適応力を完全に失っています。階段を駆け上がったり力んだりした瞬間、全身の血管が開くのに対して心臓からの血液供給が追いつかず、血圧が急降下して脳虚血を引き起こし、バタンと倒れる失神に至るのです。また、過剰に膨れ上がった右心室の心筋自体が酸素不足に陥ることで、強い締め付け感を伴う胸痛が発生します。
闘病記や患者団体の手記、医療機関の症例報告を検証すると、初期段階での誤診や見過ごしがいかに当事者を精神的・身体的苦痛に追い込んでいるかが生々しく伝わってきます。
「会社の健康診断では毎年『異常なし』。ある日、通勤電車の乗り換え階段の途中で突然目の前が真っ暗になり、救急搬送されました。最初は過呼吸やパニック障害を疑われ、精神科に回されそうになった」(40代女性・発症当時の手記より)
「平地での息苦しさはなかったため、ただの運動不足だと思い込んでスクワットを始めたところ、激しい胸痛に襲われて倒れました。診断がついたときにはすでに重度の右心不全を起こしていました」(50代男性・臨床報告事例)
さらに病状が進んだ肺高血圧症の末期症状では、右心不全の兆候が全身の物理的な異常として噴出します。右心室から肺へ血液が送り込めないため、心臓へ戻ってくる静脈血が全身に停滞する「うっ血」が生じます。首の静脈が太く浮き上がる(頸静脈怒張)、肝臓に血液が溜まって腫れ上がり右脇腹が張る(肝腫大)、お腹に大量の水が溜まる(腹水)、手足の先が冷え切って唇が紫色に変色する(チアノーゼ)といった症状は、心臓のポンプ機能が破綻の淵にあることを告げる緊急サインです。