阿川佐和子の人生を語る上で、父であり文化勲章受章作家の阿川弘之氏の存在を避けて通ることはできない。厳格で気難しく、癇癪持ちとしても知られた文豪の父を、彼女は長年ユーモアを交えたエッセイで描いてきた。
母の認知症介護、そして父の晩年の看病。文藝春秋をはじめとする各メディアで連載を抱えながら、彼女は身を粉にして両親を支え続けた。2015年に父・弘之氏が94歳で他界。強烈な羅針盤を失った喪失感の中で、彼女の孤独にそっと寄り添ったのが曽我氏だった。
生前、頑固一徹だった父がもし健在なら、娘の60代での結婚にどう反応しただろうか。阿川自身も「父が生きていたら、いろいろ文句をつけて結婚を許してくれなかったかもしれない」と笑い混じりに振り返っている。父を見送ったことで、皮肉にも彼女自身のプライベートな時計が、ようやく動き出したのだった。