本来、純粋な水は大気圧下において0℃で凍り始めます。しかし、非常に静かな環境でゆっくりと均一に冷やしていくと、水分子は0℃を下回っても規則正しい格子状の結晶構造を作ることができず、液体の状態を保ち続けます。この限界を超えて液体にとどまっている不安定な熱力学的状態を「過冷却」と呼びます。
なぜ、0℃以下になっても凍らないのでしょうか。液体の水が氷へと相転移するには、分子同士が集まって小さな結晶の核となる「氷核」を形成しなければなりません。しかし、核が一定以上の大きさ(臨界核)に達するまでは、表面エネルギーの壁が存在するため、分子の結合が自然発生しにくいという熱力学的ハードルがあります。このエネルギー障壁を越えられないまま冷やされた状態が過冷却です。
そこへ外から物理的な衝撃が加わるか、あるいは小さな氷の欠片(種結晶)が投入されると、分子が整列するきっかけが一瞬で生まれます。限界まで張り詰めていたエネルギーが一気に解放され、ひとつの核を起点としてドミノ倒しのように周囲の水分子が次々と結晶化していくのです。この劇的な連鎖反応こそが、目にも留まらぬスピードでボトル全体が凍りつく「一瞬で凍る水」の正体です。