では、家庭内での関係性はどうだったのか。娘の目覚ましい躍進を前に、父・水谷豊と母・伊藤蘭がとったスタンスは、驚くほど徹底した「放任」と「静かな見守り」だった。
水谷豊は決して娘のキャスティングに口を出さず、自身の監督作や代表作に安易に彼女を引き入れるような真似もしなかった。劇場に足を運ぶ際も、関係者席ではなく一般の観客に混じり、後方の座席から静かに娘の背中を見つめていたという。母の伊藤蘭もまた、同じ表現者として一人の自立した女性に対するリスペクトを崩さなかった。
干渉しないこと、それは冷淡さではなく、娘の覚悟を信じ切るからこそできる最大の愛情表現だ。過保護な庇護を拒み、自力で泥だらけになって帰ってくる娘を、ただ温かい食卓で迎える。その健全な親子の距離感こそが、趣里の自立心を歪みなく育てる土壌となったことは間違いない。