群馬県立近代美術館が単なる地方ミュージアムの枠を超え、世界的な評価を獲得している背景には、磯崎新が追求したラディカルな建築思想と、奇跡的なコレクションの出逢いがあります。1974年の開館翌年、同館は名誉ある日本建築学会賞を受賞。磯崎建築の特徴である「12メートルの正立方体(キューブ)」を基準モジュールとしたグリッド構造は、訪れる者の空間感覚を鮮やかに再構築します。
アルミパネルの鈍い光沢とガラスが織りなす幾何学的な外観は、周囲の木々の葉脈や水盤の揺らぎを鏡のように映し出します。エントランスホールに足を踏み入れた瞬間、天井高を生かした圧倒的な吹き抜けと、宙に浮かぶかのような大階段が視界に飛び込んできます。無駄を徹底的に削ぎ落としたミニマルな空間設計は、美術品を飾るための「無地のカンバス」でありながら、それ自体が呼吸する巨大な彫刻作品として鑑賞者を圧倒します。
この研ぎ澄まされた空間の中で、ひときわ静謐な光を放っているのが、印象派の巨匠クロード・モネが晩年に手がけた名画《睡蓮》(1914〜17年頃)です。ジヴェルニーの自宅庭園で描かれたこの作品は、水面と空の境界が溶け合う幽玄な色彩が特徴であり、同館が誇る所蔵作品の中核をなしています。東京の大規模展覧会では押し寄せる人波に遮られがちなモネの絵筆のタッチを、ここでは息遣いを感じられるほどの親密な距離感で、心ゆくまで対話するように鑑賞できます。
さらに見逃せないのが、高崎の実業家・井上房一郎の慧眼によって形成された「戸方庵井上コレクション」です。尾形光琳や長谷川等伯、雪舟といった東洋・日本古美術の名品群から、福沢一郎や山口薫といった群馬ゆかりの近代洋画の旗手たちの意欲作までが揃います。西洋のモダニズム建築の内部で、東洋の伝統的美意識と近代の反骨精神が共鳴し合う構造こそが、国内外の研究者やキュレーターを魅了し続ける決定的な理由です。