神社において、神域の始まりを視覚的に告げる最大のシンボルが鳥居である。鳥居をくぐった瞬間から先がすべて神域であり境内であると認識している参拝者は多い。神道の世界観において、鳥居は単なる門ではなく、俗世の穢れを祓い、清浄な神の領域へと意識を切り替える結界の装置として機能している。
映画『陰陽師 (映画)』で描かれたような結界術の描写を大げさなファンタジーだと思うかもしれない。しかし実際の社寺建築においても、参道の砂利を踏みしめる音で邪気を払い、注連縄で不浄を遮断する緻密な空間防衛が施されている。参道の中央である「正中(せいちゅう)」を避けて端を歩く作法も、そこが神の通り道であるという厳格な空間意識に基づいている。
現代の私たちは、スマートフォンでGoogle マップを開き、赤や緑の境界線で区切られた敷地を確認することに慣れきっている。だが、実際の信仰空間としての境内は、地図上の敷地境界線よりもはるかに立体的で重層的だ。山全体がご神体である大神神社のように、目に見える塀の外側まで広大な神域が広がっているケースも珍しくない。