動物の愛らしい姿から一転、人間の生殖生理学における放心状態になる原因には、脳内で起きる極めてダイナミックな化学反応が関与しています。古くから俗語として扱われてきたこの現象は、現代の医学研究において「射精後不応期(Post-ejaculatory refractory period)」という厳密な生理現象として体系化されています。
最大の発火点となるのは、プロラクチンとドーパミンの変化です。性的興奮が高まるプロセスにおいて、脳内では快楽物質であるドーパミンが大量に放出され、集中力と情動をピークへと押し上げます。ところがオーガズムに達した瞬間、脳の視床下部や下垂体から催乳ホルモンとしても知られる「プロラクチン」が一気に分泌されます。このプロラクチンには、高揚していたドーパミンの分泌を急激にブロックする強力な抑制作用があります。
あわせて、副交感神経を急速に優位にするオキシトシンやセロトニンが流れ込み、全身の血管拡張と筋弛緩が一気に進行します。この神経伝達物質の急降下と急上昇の乱高下こそが、意識をボーッとさせ、感情の波を凪(なぎ)の状態へと変貌させる引き金です。男性ホルモンと脳内物質が織りなすこの生化学的急ブレーキによって、男性は自らの意思とは無関係に、あの特有の脱力した表情を浮かべることになります。