東京の食文化を語る上で、文学者たちの証言は欠かせない。陰影礼賛の美学を説いた谷崎潤一郎は、東京の伝統的な味覚に対する強い愛着を作品や随筆に残した。谷崎が好んだのは、過度な装飾を削ぎ落とし、素材の煮含め方一つで勝負する純粋な江戸の味配分である。
また、下町の路地裏と市井の食を誰よりも愛した作家・池波正太郎も、折に触れてこの味を買い求めた一人だ。散策の合間に買い求め、自宅や仕事場で茶をすすりながらつまむ折詰。そこには、格式ばった料亭の料理とは異なる、日々の暮らしに根ざした贅沢があった。文豪たちが愛したその味わいは、レシピの数値化だけでは捉えきれない「東京の記憶」として、今も折箱の中に封じ込められている。