白米千枚田の復興は、単なる観光地の修復にとどまりません。ここは、人と自然が何世代にもわたって共生してきた世界農業遺産「能登の里山里海」の中核をなす生きた文化遺産です。一枚あたりの面積が平均約20平方メートルと極めて小さく、機械化が不可能なこの地を維持してきたのは、先人たちの知恵と地域コミュニティの絆でした。
被災直後は「果たしてこの過酷な斜面の田を再び耕すことができるのか」という悲痛な声も上がりました。しかし、大学の研究機関や伝統工法を継承する左官職人、造園技術者などが集結し、伝統技術と現代の防災工法を組み合わせた持続可能な修復プロジェクトが立ち上がりました。地盤の挙動を監視するセンサーを設置しつつ、本来の景観を損なわない自然素材を用いた補強が進められています。
失われかけた棚田の生態系にも回復の兆しが見られます。春先には山からの澄んだ水が満ち、水生昆虫や野鳥が再び姿を見せるようになりました。災害という過酷な試練を経て、自然の脅威と共存しながら受け継がれてきた能登の里山文化の強靭さが、現場の土と汗のなかに息づいています。