福岡伸一氏の名を広く一般に知らしめた契機は、2007年に刊行された新書『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)です。同書は累計発行部数80万部を超える記録的ベストセラーとなり、第29回サントリー学芸賞および第1回新書大賞を受賞しました。
本書で提示されたのは、ルドルフ・シェーンハイマーの同位体追跡実験に基づく「動的平衡(Dynamic Equilibrium)」という画期的な生命観です。生命とは、DNAという設計図通りに組み上げられた精密機械ではなく、環境から分子を取り込み、自らの構成成分を絶えず分解・排出しながら同一性を保ち続ける「流れ」そのものである――この鮮烈な指摘は、機械論的・還元主義的な見方に慣れ親しんでいた現代社会に鮮烈なパラダイムシフトをもたらしました。
その後も『動的平衡』シリーズ(木楽舎・小学館新書)をはじめ、『生命と食』『福岡伸一、西田哲学を読む』など、生命科学の知見を人間の生き方や文明論へと接続する数々の著書を上梓。その明晰なロジックと詩情豊かな文体は、文理の垣根を超えた読者層から絶大な支持を集めています。