近代西欧文学の中でムーア人の存在を不滅のものにしたのが、ウィリアム・シェイクスピアの傑作悲劇『オセロ』である。ヴェネツィア共和国の武功ある将軍でありながら、その異国的な出自と肌の色ゆえに内なる孤立を深め、狡猾なイアーゴの計略によって破滅へと転落していく主人公オセロ。この劇は、当時のエリザベス朝イングランドが抱いていた他者への畏敬と警戒心を鮮烈に映し出している。
劇作家たちは彼らを、高貴さと野蛮さ、卓越した軍事力と情熱的な狂気が同居する存在として描き出した。オセロというキャラクターに凝縮された葛藤は、ヨーロッパが自らのアイデンティティを確立する過程で、鏡像としての「ムーア人」をいかに必要とし、同時に恐れていたかを雄弁に物語っている。