エスプレッソを象徴する最大のビジュアル的特徴が、液面を覆うヘーゼルナッツ色のきめ細やかな泡「クレマ(Crema)」です。このクレマの正体は、コーヒー豆が内部に抱え込んでいる二酸化炭素(炭酸ガス)と豆の植物性油脂が、高圧抽出によって乳化(エマルジョン化)したものです。
クレマの役割は単なる飾りではありません。第一に、揮発しやすい繊細なアロマ化合物を液体内部に閉じ込める「フタ」の機能を果たします。第二に、舌の上に微細なオイルの膜を張ることで、強烈な苦味を角の取れたまろやかなコクへと変換するテクスチャーの調整役を担っています。
エスプレッソマシンの抽出仕組みを物理的に見ると、ボイラーで約90℃〜94℃に加熱された湯が、高圧ポンプによって圧縮され、タンピング(押し固め)された粉の層へ均一に噴射されます。この高圧短時間抽出のメリットは、コーヒー豆のポジティブな要素である甘味・酸味・脂質を瞬時に引き出す一方で、抽出後半に抽出される過度なタンニン(渋味成分)や不快な雑味を粉の中に置き去りにできる点にあります。
では、なぜエスプレッソが苦い理由として強調されがちなのかといえば、イタリアの伝統的な焙煎度合が深煎り(フルシティ〜フレンチロースト)であることに加え、成分が液体中に高密度で濃縮されているためです。しかし、正しく抽出されたエスプレッソは、舌の奥で重層的なカラメルのような甘味と長い余韻をもたらします。