日本では古来、60歳を迎えた人物に還暦の祝いとして赤色の衣類を贈る習慣がある。魔除けの意味を込め、赤ちゃんに還るという意味を託した祝福の儀礼だ。しかし、民俗学の大家である柳田國男の研究をはじめとする日本民俗学会のアプローチを紐解くと、赤という色が持つ本質的な双極性が浮かび上がる。
赤は生命力の象徴であると同時に、血や火、そしてあの世との境界を示す色でもあった。おめでたいはずの還暦の衣装が、怪談の文脈に組み込まれた瞬間、生と死の境目が曖昧になる。老いと再生のシンボルが、背筋を凍らせる怪異の衣へと反転したプロセスの裏には、近代化の過程で失われた共同体の異界に対する畏怖が隠されている。