球磨川禊という人物を語るうえで避けて通れないのが、彼が背負う属性「過負荷(マイナス)」です。作中における天才集団「異常(アブノーマル)」や秀才集団「特別(スペシャル)」と真っ向から対立するこの概念は、生まれつき人格や境遇に致命的な欠陥を抱えた者たちの烙印でもありました。箱庭学園において、光の当たらない地下校舎に押し込められていた「マイナス十三組」のリーダーとして君臨した球磨川は、まさに虐げられた者たちの絶対的カリスマとして君臨します。
彼の原初的な行動原理は、幼少期の凄惨なエピソードに色濃く表れています。人吉善吉の母である医師・人吉瞳のカウンセリングを受けていた幼き日の球磨川は、幼少の善吉を人質に取り、自身を「異常なしの正常である」と診断するよう脅迫しました。さらに、完全無欠の象徴である黒神めだかに対し、幼少期から「人間はきっと無意味に生まれ、無関係に生き、無価値に死ぬ」「世界に目標などないのだから、人生にも目標は必要ない」と語りかけ、その歪んだ実存主義をぶつけています。
笑顔を絶やさず、丁寧な言葉遣いの裏で相手の顔面を巨大なネジで床に縫い止める。善悪の彼岸を踏み越えた不気味さを漂わせながら、彼が放つ言葉には、恵まれた強者が決して理解できない「弱者の怨嗟」が生々しく宿っていました。単なる狂気の殺人鬼ではなく、不条理な世界に対する痛烈な告発者であった点こそ、彼が読者の視線を釘付けにした発火点です。