ケアの順序を間違えるだけで、なぜ予防効果に決定的な差が生まれてしまうのでしょうか。その理由は、プラークの持つ物理的特性と、薬用成分の作用機序にあります。
第1の理由は、フッ素を歯に残す正しい磨き方を阻害しないためです。現代の虫歯予防の要は、市販の歯磨き粉にも広く採用されている1450ppmの高濃度フッ素を、歯の表面および歯間部のエナメル質にどれだけ長く留まらせるかにかかっています。歯磨きをした後にフロスを通すと、フロスの糸が歯間に滞留していたフッ素を機械的に削ぎ落としてしまいます。さらに、フロス後に口をすすぎたくなって再び激しくうがいをしてしまえば、せっかくの有効成分はほぼ完全に唾液とともに流出してしまうのです。
第2の理由は、頑固なバイオフィルムのバリア構造にあります。歯と歯が密接に触れ合うコンタクトポイントや歯頸部は、細菌が強固なスクラムを組んだバイオフィルムで覆われており、歯ブラシの毛先が物理的に届きません。先にフロスを通すことでこのバイオフィルムの膜を物理的に破壊し、隙間を開放しておかなければ、後から歯ブラシで泡立てたフッ素や殺菌成分が深部まで浸透できない構造になっています。
さらに見逃せないのが、行動心理学的な側面です。人間は歯ブラシで口内が泡立ち、ミントの爽快感を得ると「十分に口が綺麗になった」という錯覚(クリーン・イリュージョン)に陥ります。その結果、「フロスは面倒だから明日にしよう」と後回しにする心理的スキップが発生しやすくなります。最初からフロスを手に取る習慣を確立することは、ケアの脱落を防ぐ最も確実な防壁となります。