大筆(太筆)の手入れにおいて、最も多い失敗が「表面の墨だけを洗い流して満足してしまう」パターンです。筆の寿命を縮める真犯人は、目に見える穂先ではなく、筆の根元に残留した墨の粒子にあります。
根元に墨が残ったまま乾燥すると、墨に含まれる膠(にかわ)が硬化して毛の根元を押し広げ、筆先がまとまらなくなる「筆割れ」を招きます。以下の正しい手順を確実に踏むことで、根元の墨溜まりを完全に除去できます。
【大筆の正しい洗い方 4ステップ】
ステップ1:ため水で大まかな墨を洗い流す
いきなり勢いのある流水にさらすと、水圧で毛が乱れたり折れたりします。まずは洗面器やコップに常温の水を溜め、穂先を泳がせるようにして表面の墨を8割程度落とします。
ステップ2:根元から穂先に向かって優しく押し出す
親指と人差し指の腹を使い、筆の根元(軸のすぐ下)を軽く挟みます。決して爪を立てたり引っ張ったりせず、根元から毛先に向かって墨を優しく押し出すように揉みほぐします。この作業を繰り返すと、根元から真っ黒な墨汁がじわじわと染み出してきます。
ステップ3:弱めの流水で根元まで洗い流す
蛇口から細く出した常温の流水に根元を当て、揉み出しながら濁りが出なくなるまで丁寧にすすぎます。水受けに落ちる水が完全に透明になるまで、最低でも2〜3分は時間をかけてすすぐのが目安です。
ステップ4:水分を拭き取り形を整える
キッチンペーパーや吸水性の高いタオルで穂先を包み、根元から水分を吸い取ります。指先で穂先をスーッと撫でて綺麗な円錐形に整えてから乾燥工程へ移ります。
兼毫筆・羊毛筆のお手入れ詳細まとめ
筆の毛質によっても、洗う際の力の加減は異なります。イタチや馬毛に羊毛を混ぜた「兼毫筆(けんごうふで)」は比較的扱いやすく、弾力があるため根元の揉み出しもスムーズに行えます。一方、上級者や仮名条幅で愛用される「純羊毛筆(白羊毛)」は、毛が非常に柔らかく繊細です。強い力で揉むと毛が切れたり縮れたりするため、手のひらの上で優しく撫でるようにして、時間をかけて墨を浮き上がらせる配慮が欠かせません。