なぜ金融機関は、年金の受取口座指定に対してこれほどまでに手厚いキャンペーンを展開するのでしょうか。背景には、金融界における冷徹な顧客生涯価値(LTV)の計算が存在します。金融機関関係者の証言によると、「年金受取口座を獲得することは、受給者本人の預金残高だけでなく、数千万円規模に及ぶ退職金預金、さらには次世代へ受け継がれる相続資産のゲートキーパー権を握ることを意味する」と明かされています。
日銀が段階的な追加利上げを進めたことで、かつてのゼロ金利時代には考えられなかった「金利競争」が本格化しました。各行はシニアマネーの争奪戦にしのぎを削っており、年金受給者限定の優遇定期預金では、店頭表示金利に対して年0.1%〜0.5%程度の上乗せ金利を提示する事例が相次いでいます。仮に年金受給額が年間200万円、預金残高が1,000万円ある世帯の場合、金利差や各種優遇の有無によって、年間で数万円、10年間では数十万円単位の差が生まれる計算です。
しかし、格差は表面的な利息にとどまりません。毎月発生するATM利用手数料、他行宛て振込手数料の無料枠、さらには提携ポイントプログラムの還元率に至るまで、選ぶ口座によって日常のコスト構造が根本から変化します。長年メインバンクとして付き合ってきた金融機関であっても、シニア優遇プログラムが手薄であれば、資産の実質的な目減りを招く要因となり得ます。