日本のノコギリクワガタは、単一の種ではない。本土に広く分布する基亜種(ホンドノコギリ)のほかに、伊豆諸島や南西諸島には、驚くほど形態の異なる亜種が点在している。
例えば、伊豆諸島に生息する「ハチジョウノコギリクワガタ」。大顎が緩やかに湾曲し、体色は深い漆黒や赤褐色を呈する。本土産に比べて脚が短く、地面を歩く生活に適応した結果と考えられている。また、トカラ列島にのみ生息する「トカラノコギリクワガタ」は、目を見張るような鮮やかなオレンジ色の体躯を持ち、日本一美しいクワガタと称されることも多い。
これらの亜種は、海という物理的な障壁によって何万年もの間、独自の進化を遂げてきた。まさに「生きた化石」であり、日本のガラパゴスと呼ぶにふさわしい存在だ。しかし、その限られた楽園が今、脅かされている。