静岡県浜松市中央区(旧西区)和地町。東名高速道路の舘山寺スマートインターチェンジから車を走らせること約5分、緩やかな丘陵地の緑に囲まれた一角に「ぬくもりの森」は静かに佇んでいます。一歩足を踏み入れると、アスファルトの日常から切り離されたかのような、土壁の優しい質感と不規則に波打つ瓦屋根、丸みを帯びた煙突が連なる異国情緒あふれる空間が広がります。
ネット上で長年囁かれ続けている「スタジオジブリのアニメーションに酷似している」という評判について、現地を視察するとその理由が明確に腑に落ちます。『魔女の宅急便』のグーチョキパン店や、『ハウルの動く城』に登場しそうな複雑に入り組んだ木組み、職人の手仕事がそのまま残るランダムな石畳など、緻密なディテールが視界を埋め尽くすからです。木々の木漏れ日と建物の陰影が重なり合う光景は、どこを切り取っても絵画的な構図を完成させています。
しかし、ここで強調しておくべき事実があります。ぬくもりの森は、スタジオジブリとは一切の商業的・法的な関連を持たない完全オリジナルの建築群です。この唯一無二の景観を作り上げたのは、独自の建築スタイル「ぬくもり建築」を提唱した建築家・故・佐々木茂良(ささき しげよし)氏。自身の建築事務所やアトリエを構えたことを契機に、約30年以上の歳月をかけて一棟ずつ丹念に手作りで増築を重ねていった、まさに一個人の情熱と美学が凝縮された建築作品群なのです。
大量生産の工業化住宅とは対極に位置する、歪みや曲線を愛でる建築美学。その根底にあるのは「自然界に直線は存在しない」という佐々木氏の確固たる思想です。商業施設としてパッケージ化されたテーマパークではなく、作家の息遣いが宿る生きたアトリエ村である点こそが、現在も感度の高いクリエイターや旅行者を惹きつけてやまない本質的な魅力といえます。