日本各地でツキノワグマの出没原因が議論される際、かつてはブナやミズナラなどドングリ類の凶作周期が主な要因とされてきました。もちろん餌不足は山からクマを押し出す直接的な引き金ですが、問題の本質はより構造的な環境変化にあります。
第一に挙げられるのが、人間と野生動物の緩衝地帯であった「里山」の機能不全です。地方の過疎化と高齢化に伴い、耕作放棄地や手入れのされない雑木林が住宅地のすぐそばまで迫るようになりました。これにより、クマが身を隠しながら安全に人の生活圏へ侵入できるルートが日常化しています。
第二に、人間を過度に恐れない「新世代のクマ(アーバン・ベア)」の定着です。人里に放置された生ゴミ、未収穫の果樹、コンポスターの臭いなどに味をしめ、住宅街を「効率よく高カロリーな食物が得られる餌場」として学習した個体がメス親から子へと行動様式を継承しています。警戒心を失ったクマが白昼から徘徊する現状は、従来の生態常識を完全に塗り替えています。