蒋介石の銅像撤去が相次ぐ最大の理由は、台湾政府が進める「移行期正義(Transitional Justice)」の徹底にあります。移行期正義とは、過去の権威主義的独裁政権下で行われた人権侵害や不正義の真相を究明し、被害者の名誉回復と社会の和解を目指す国家的な取り組みを指します。
かつて台湾では、1947年に起きた国民党政権による本省人(戦前から台湾に住んでいた人々)弾圧である「二・二八事件」を皮切りに、1949年から1987年まで世界最長級となる38年間もの戒厳令が敷かれました。この間、反体制派とみなされた多くの市民や知識人が裁判なしに投獄・処刑された時代は「白色テロ」と呼ばれ、数万人規模の犠牲者を出したと伝えられています。
当時の台湾では、独裁体制を維持するために蒋介石に対する徹底した個人崇拝教育が行われ、小中学校の校庭、駅前広場、官公庁のロビーにいたるまで、数万体とも言われる銅像が設置されました。民主化を達成した現在の台湾社会において、自国民を弾圧した責任者である蒋介石の像が「国の守護者」のように公共空間に君臨し続けることは、被害者遺族にとって耐えがたい屈辱であり、民主主義の理念とも矛盾するという認識が定着したのです。
蔡英文政権期に成立した「移行期正義促進条例」に基づき、権威主義の象徴と認定されたモニュメントの撤去が義務付けられました。さらに台湾内政部は、公的機関や教育施設に対して1体あたり最高10万台湾元(約45万円)の撤去・移設補助金を交付する施策を推進。これにより、各自治体や学校が保管コストや管理リスクを嫌気して撤去を一気に加速させる決定打となりました。