プロレスファンや格闘技ファンの間で今なお議論されるのが、「現代のプロレスラーが放つビッグブーツと、馬場の16文キックは何が違うのか」という点です。
現代のプロレスにおけるビッグブーツは、走り込んで相手の顔面にブーツの底を突き刺す、いわゆる「カウンターの蹴り技」として広く普及しています。しかし、全日本プロレスのリングで馬場が見せた16文キックには、以下の3つの明確な構造的差異と美学が存在していました。
- 自重と落差の物理的エネルギー:身長209cm・体重135〜145kgの巨体が、ロープに振られて跳ね返ってきた相手に対し、ほとんど助走をつけずに片足を水平に掲げる。相手は時速20km以上の突進スピードで、馬場の巨大な足裏(硬質革底)に自ら顔面から激突することになります。
- 技のタメと「間(ま)」の演出:馬場は技を出す直前、独特の大きなモーションでリング中央にどっしりと構え、相手がロープから戻る一瞬のタイミングに合わせて足を水平に跳ね上げました。この視覚的コントラストが観客に強烈なインパクトを与えました。
- 派生技「32文ロケット砲」への布石:16文キックの進化系として、両足を揃えて相手の胸板や顔面に飛び込む「32文ロケット砲(32文ドロップキック)」が存在します。16文+16文=32文という明快なネーミングとともに、巨体が宙を舞うダイナミズムは昭和プロレスの象徴的ハイライトでした。
元三冠ヘビー級王者・天龍源一郎氏や川田利明氏ら、実際に馬場の蹴りを受けたレスラーたちは後年の手記で「馬場さんの足は壁そのもの。向かっていくと鉄板に顔面から激突するような衝撃で、脳が激しく揺れた」と語っており、見栄えの派手さ以上に凄まじい実効破壊力を秘めていたことが証言されています。