連日連夜のハードな撮影スケジュール。しかし、若い石原裕次郎の伝説はセットの裏側でも作られていた。日活の撮影所には、今も語り継がれる数々の撮影裏秘話が残されている。
『狂った果実』の撮影時、演技経験の乏しい彼をサポートしようと監督やスタッフが細かく指示を出そうとしたところ、本人は「飾らない、素の動作」を崩さなかったという。長身とスラリと伸びた足、独特の歩き方や煙草のくゆらせ方は、演技指導で身につくものではなく、彼が元々持っていた天性のスタイルだった。スタッフは途中で指示を諦め、彼が自由に動く姿をただカメラで追う方針へと変更。それがかえって、かつてない臨場感と圧倒的存在感を生み出す結果となった。
日活黄金期の屋台骨を支える重圧の中でも、彼はカメラが回っていない場所では大部屋俳優や裏方スタッフと気さくに酒を酌み交わし、現場の士気を高めた。20代にしてすでに備わっていた親分肌の気質と、どこか孤独を漂わせる二面性こそが、大衆を虜にした最大の謎であり魅力だったのだ。