オハイオ州シンシナティで結成されたインディー・ロックバンド、WALK THE MOON。バンド名はThe Policeの楽曲『Walking on the Moon』に由来し、リードボーカル兼キーボードのニコラス・ペトリッカ(Nicholas Petricca)を中心に活動を展開してきました。彼らの名を世界中に知らしめた本作『Shut Up and Dance』は、スタジオで計算し尽くされて生まれたものではなく、ニコラス自身の実体験がベースになっています。
公式インタビューや当時の証言によると、舞台となったのはロサンゼルスのエコーパークにある有名なナイトクラブ「The Echo」で開催されていたインディー・ダンス・ナイトでした。当時、プライベートや楽曲制作に行き詰まりを感じていたニコラスは、バーカウンターの隅で飲み物を片手に、フロアに出るのをためらいながら一人で考え込んでいました。
その時、フロアからやってきた彼のパートナー(当時の交際相手)が、背中の開いたドレスに履き古したスニーカーという個性的な出で立ちで現れ、逡巡するニコラスの手を力強く引いて「Shut up and dance with me!」と言い放ったのです。その瞬間、彼の頭の中にあった迷いや鬱屈とした思考が一瞬で吹き飛び、直感的に音楽のインスピレーションが爆発しました。
翌日、ニコラスはソングライターのベン・バーガー(Ben Berger)やライアン・マクマホン(Ryan McMahon)とともにスタジオへ入り、あの夜の興奮をそのままコード進行とメロディへと昇華させました。3rdアルバム『TALKING IS HARD』(2014年、RCA Records)のリードシングルとしてリリースされたこの楽曲は、作られたフィクションではなく、一人の人間が体験した「理屈を超えた解放の瞬間」という真実が宿っていたからこそ、世界中のリスナーの心を捉えたのです。