『紅の豚』の音楽誕生の裏には、映画自体の制作経緯にまつわる意外な事実が存在します。本作は当初、日本航空(JAL)の国際線機内上映用として企画された、わずか15分程度の短編アニメーションでした。
しかし、宮崎駿監督の創作意欲が刺激されるとともに物語は膨らみ、さらに制作当時に起きた湾岸戦争や旧ユーゴスラビアの内戦といった世界情勢が監督の心境に大きな影を落とします。結果として映画は本格的な93分の長編劇場映画へと拡大し、音楽面でもより深遠なテーマ性が求められることとなりました。
久石譲は当初、アドリア海を想起させる爽快なフレンチ・ポップスやイタリア民謡寄りのアプローチも検討していましたが、宮崎監督が描く「くたびれた中年のリアリズム」を受け止め、結果として重厚なジャズと管弦楽の融合へと舵を切りました。この大胆な方向転換こそが、他作品とは一線を画す唯一無二のビターなサントラを生み出す原動力となったのです。