日本放送協会(NHK)の看板枠である連続テレビ小説『すずらん』で主演を務めたキャリアは、彼女の演技派としての揺るぎない土台となった。北海道の厳しい自然の中に凛と立つ姿は、多くの視聴者の脳裏に鮮烈な記憶として刻まれている。
だが、彼女の真の凄みを知らしめたのは、名匠・熊井啓監督による映画『日本の黒い夏─冤罪』での圧倒的な演技だろう。松本サリン事件を題材にした重厚な社会派サスペンスにおいて、遠野なぎこは見事に日本映画批評家大賞新人賞を獲得した。メディアの過熱報道と冤罪の恐怖に追い詰められる女性の心理を、息を呑むほどの緊迫感と繊細な表情の変化で表現しきった。清純派の殻を突き破り、人間の業や極限状態のリアリティを泥臭く描き出す稀有な資質は、この時期すでに確立されていた。