日本の年金を受給していないとなると、次に浮上するのが「インドネシア元大統領夫人としての恩給(年金)や、莫大な遺産で暮らしているのではないか」という仮説です。いわゆるデヴィ夫人 インドネシア 恩給やデヴィ夫人 スカルノ大統領 遺産に関する憶測ですが、ここにも歴史的な真実と大きな隔たりがあります。
1965年に起きたインドネシアの「9・30事件」を契機に、スカルノ大統領はスハルト将軍率いる軍部によって政治的実権を剥奪され、事実上の軟禁状態に置かれました。1970年にスカルノ氏が逝去した際、政権交代の混乱と新体制への移行に伴い、大統領一族の公的資産や口座の多くは凍結・再編の対象となりました。
当時の様子について、デヴィ夫人は自伝『デヴィ・スカルノ自伝』や各誌のインタビューで詳細に振り返っています。スカルノ氏の死後、幼い一人娘カリナ氏を連れてパリへ亡命同然で渡った際、手元にあったのは大統領から個人的に贈られていた貴金属や海外銀行の預金の一部であり、国費から支払われる大統領遺族年金(恩給)が悠々自適の生活を保証してくれるような状況では決してありませんでした。
現在でもインドネシア政府から元国家元首の遺族としての一定の儀礼的配遇や手当が存在する可能性は指摘されているものの、近年のインドネシア・ルピアの国際為替水準や現地公務員の給与体系を考慮すれば、日本での豪奢なライフスタイルを維持できる規模の金額ではないことは明白です。「大統領の遺産で遊んで暮らしている」という大衆のイメージは、冷戦下の過酷なクーデター劇を生き延びた歴史的実態とは大きく異なっています。