丸山思想の代名詞とも言えるのが、1946年の論文「超国家主義の論理と心理」および『現代政治の思想と行動』に収録された諸論考です。丸山は戦前の大日本帝国をファシズム国家として単純に断罪するのではなく、西欧のナチス・ドイツなどと比較しながら、日本特有の権力構造のいびつさを暴き出しました。
西欧近代国家における「法と道徳の分離」に対し、日本型超国家主義は「天皇という絶対的価値の源泉」を中心に据え、国家が国民の内面や道徳までをも全面的に統制する構造を持っていました。ここで丸山が定式化した重要概念が以下の2点です。
1. 抑圧の移譲(よくあつのいじょう)
上から受けた不条理な圧迫やストレスを、反省や対抗に向けるのではなく、自らより立場の弱い下位者へと暴力的に転嫁していく心理的メカニズム。軍隊内で古参兵が新兵を殴り、その新兵がさらに民間人を虐げるといった連鎖が、国家全体の倫理崩壊を招きました。
2. 無責任の体系(むせきにんのたいけい)
誰もが「自分は上からの命令に従っただけ」「空気や時勢に押し流されただけ」と言い逃れをし、国家の最高意思決定者から末端の国民に至るまで、主体的な道徳的責任の所在が完全に蒸発してしまう現象。東京裁判の法廷で軍指導者たちが「やむを得ない情勢だった」と口を揃えた実態を、丸山は鋭くえぐり出しました。
丸山が目指したのは、日本人が長年囚われてきた「自然に成る(できあがる)」という受動的な態度を捨て、人間自らの意志と設計によって社会を築く「作為の契機(作為の論理)」を獲得することでした。この自立した個人の確立という問題意識は、彼が生涯私淑した啓蒙思想家・福沢諭吉の「一身独立して一国独立す」という精神と分かち難く結びついています。