司忍組長の移動車として、昭和から平成・令和を通じて最も世間に鮮烈なインパクトを残したのが、2011年4月9日の府中刑務所出所時の送迎車です。
銃刀法違反罪により5年4か月の服役を終えた司組長を出迎えたのは、漆黒のメルセデス・ベンツ・Sクラス(5代目W221後期型)でした。品川や名古屋ではなく、本拠地である兵庫県を示す神戸ナンバー「む6258」を掲げたその車両は、テレビ各局が早朝から生中継するカメラの放列の前に静かに現れました。
当時、現場で追跡にあたった実話誌記者や警察担当記者の記録によると、午前4時の府中刑務所前は異様な静寂と緊張に包まれていました。出所した司組長がハットにマフラー姿で後部座席に乗り込むと、漆黒のベンツはゆっくりと発進。中央自動車道へと上がりました。このとき繰り広げられたのが、マスコミ各社の追跡バイク・車両と警察の覆面パトカーを巻き込んだ「制限速度をミリ単位で厳守する前代未聞の追跡劇」です。
「制限速度80km/hの区間では正確に80km/h、60km/h制限の首都高速では60km/hを一歩も超えない。ウインカーを出すタイミング、車線変更の挙動に至るまで、道路交通法の教習所見本のような完璧な運転だった」と当時の同乗記者は振り返っています。わずかな道交法違反すら口実に警察から現行犯停車や職務質問を受けることを防ぐため、運転手付きの専用車は極限の集中力で品川駅へと向かい、そこから組長は東海道新幹線で神戸へと移動しました。
この「6258」というナンバープレートを巡っては、「組織内の隠語ではないか」「縁起を担いだ特別な語呂合わせか」とネット上で無数の憶測を呼びました。しかし、公安関係者の内部検証によれば、希望ナンバー制度を用いた作為的な数字ではなく、あえて陸運局で機械的に払い出される一般ナンバーを採用したものでした。特定の数字に意味を持たせると外部から個体を特定されやすく、襲撃犯や警察当局のNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)にパターン認識されるリスクを避けるための、冷徹な危機管理設計だったのです。