福士蒼汰が「ビジュアル先行の俳優」という先入観を完全に払拭した背景には、過酷な葛藤と多層的な心理を抱えるキャラクターへの真摯なアプローチがあります。
2017年の『愛してたって、秘密はある。』において、彼が演じた奥森黎は、家庭内暴力を受ける母親を守るために実父を殺害したという重い十字架を背負っていました。心理学で言われる「母子共依存」と「抑圧されたトラウマ」が生み出す二重人格(解離性同一性障害)の兆候を、福士は眼差しの揺らぎや声のトーンの微細な変化によって表現。当時の特番インタビューや公式会見でも、「自分自身の心の奥底にある弱い部分、醜い部分と徹底的に向き合わなければ成立しない役だった」と語っており、役作りに向けた並々ならぬ執念が窺えます。
さらに、その深層心理の表現が芸術の域へと昇華されたのが、よしながふみ原作の『大奥』(NHK)です。彼が演じた万里小路有功は、美貌ゆえに権力者の思惑で還俗させられ、大奥へ送り込まれる元僧侶。徳川家光(演:堀田真由)との間で交わされる純愛は、単なる恋愛ドラマを超え、人間の尊厳と魂の救済を描き出しました。特に、理不尽な運命を受け入れつつも凛とした佇まいを崩さない「静の演技」は、従来の民放ドラマで見せていた動的な芝居とは一線を画し、放送文化の専門家や批評家筋からも絶賛を浴びました。