「ストレスで便が黒くなるのか」という疑問に対し、消化器医学の観点から答えると、「ストレスそのものが便に色素を付けるわけではないが、ストレスを契機とした上部消化管の出血によって便が黒化する」というのが正確なメカニズムです。
人間の消化管機能は自律神経(交感神経と副交感神経)によって精密にコントロールされています。しかし、過度な精神的ストレスや睡眠不足、過労が続くと交感神経が極度に緊張し、胃や十二指腸の粘膜を保護する血流が急激に低下します。同時に副交感神経の乱れから胃酸が過剰に分泌されると、自らの胃酸で胃粘膜を溶かしてしまう「消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)」が形成されます。
胃や十二指腸の粘膜が深く傷ついて血管が破綻すると、管腔内に血液が流れ出します。血液中に含まれるヘモグロビン(鉄分)は、強力な胃酸や消化酵素、さらに腸内細菌と接触して酸化されることで、鮮紅色から暗赤色、そして最終的に真っ黒な硫化鉄へと化学変化を起こします。これが肛門から排泄されたものが、いわゆる「黒色便」です。
強いストレスによって下痢や腹痛を繰り返す「ストレス性胃腸炎」や「過敏性腸症候群(IBS)」の場合、通常は便の色自体が真っ黒になることはありません。もしストレス性の胃痛とともに便が明らかに黒く変色している場合、単なる機能性胃腸症の枠を超え、粘膜の物理的な損傷と出血(上部消化管出血)が起きている証拠と考えなければなりません。