映画『あん』は、刑務所帰りでどら焼き屋「どら春」の雇われ店長をしている千太郎(永瀬正敏)のもとに、70歳を超えた吉井徳江(樹木希林)が「働きたい」とやって来ることから始まります。最初は高齢と手の不自由さを理由に断ろうとした千太郎でしたが、徳江が持参した手作りの「粒あん」の芳醇な美味しさに衝撃を受け、彼女を店員として雇い入れます。
徳江のあんづくりは、小豆が旅してきた陽の光や風に感謝し、一粒一粒の声を聴くように時間をかけて煮詰める丁寧そのものでした。その絶品どら焼きの評判は瞬く間に広がり、店には連日長蛇の列ができるようになります。不登校の女子中学生・ワカナ(内田伽羅)も店に集い、擬似家族のような温かい時間が流れます。
しかし、徳江がかつてハンセン病の国立療養所(多磨全生園)で暮らしていた元患者であることが町中に知れ渡ると、客足は一気に途絶えてしまいます。千太郎は心ならずも徳江を辞めさせざるを得なくなり、偏見と差別の前に打ちひしがれます。物語の後半、千太郎とワカナは徳江が暮らす療養所を訪れ、彼女が残した「人間は生きているだけで価値がある」という深い魂のメッセージと向き合うことになります。
本作のキャスト陣は、日本映画界を代表する実力派が集結しています。
- 吉井徳江(演:樹木希林):ハンセン病の後遺症を抱えながらも、世界への愛と感謝を失わない主人公。樹木希林さんの晩年の最高傑作と称される名演。
- 千太郎(演:永瀬正敏):過去に傷を抱え、生きる気力を失いかけていたどら焼き屋の店長。徳江との出会いで心の再生を果たしていく。
- ワカナ(演:内田伽羅):家庭環境に悩みを持つ中学生。樹木希林さんの実の孫娘であり、映画初共演となったリアルな関係性が滲み出る。
- どら春のオーナー(演:浅田美代子):世間の評判を気にし、徳江の解雇を迫る冷徹な一面を持つ。
- 徳江の旧友(演:市原悦子):療養所で共に生きてきた親友役として圧倒的な存在感を放つ。