観光パンフレットやSNSで目にする「誰も歩いていない静まり返った八坂通と八坂の塔」を撮影したい場合、結論から言えば午前8時以降に現地を訪れてもその目的を果たすことは極めて困難です。京都市内の宿泊客が動き出し、近隣の着物レンタル店が開店を迎える午前9時を過ぎると、通りは常に数十人以上の往来で埋め尽くされます。八坂の塔で人が写らない穴場時間を狙うのであれば、太陽が東山山口から顔を覗かせる日の出直後から午前6時30分までの約1時間が決定的な分水嶺となります。
早朝の光は、石畳を濡らす朝露や大気中の澄んだ空気を美しく際立たせます。現地でファインダーを覗く多くの写真家が実践している八坂の塔の写真構図のコツは、坂の下側にあたる「八坂通」の東大路通側から塔を見上げるアングルです。ここで重要となるのがレンズの焦点距離です。スマートフォンの広角カメラ(24mm相当)で構えると、手前の道路が広く写り込みすぎて左右の電線や住宅のエアコン室外機などが散漫な印象を与えてしまいます。
プロの撮影現場では、焦点距離50mmから85mm前後の中望遠レンズを用い、ローアングルから見上げる構図が鉄則とされています。望遠特有の遠近感圧縮効果によって、手前の町家の格子窓や瓦屋根の連なりが八坂の塔の基底部にぎゅっと凝縮され、京都らしい重厚な町並みの密度が一気に高まります。また、路上にわずかな水たまりがある雨上がりには、ローアングルで路面を鏡面に見立てたリフレクション構図を狙うことで、他にはない幻想的な作品を生み出すことが可能です。