階段で踏み外しそうになると、多くの人が「筋力が落ちたからジムに行ってスクワットをしよう」「ランニングを始めよう」と考えがちです。しかし、専門の理学療法士は「この画一的な筋トレが、かえって踏み外しのリスクを悪化させることがある」と警鐘を鳴らします。
一般的なスクワットで鍛えられるのは主に大腿四頭筋や大臀筋です。しかし、若年層が階段でつまずく主因は、足首を反らす「背屈(はいくつ)」の可動域制限と前脛骨筋の不活性化にあります。足首の後ろ側(アキレス腱やヒラメ筋)が硬く縮こまった状態でスクワットを重ねると、太ももの前側ばかりが緊張し、足首の柔軟性がさらに失われてペタペタとした「すり足歩行」を助長してしまいます。
もうひとつの盲点は、「認知のマルチタスクによる歩行リズムの破壊」です。スマートフォンを手にしていない状態であっても、仕事上の悩み事や次のタスクを過剰に思考しながら歩行していると、脳の前頭前野のリソースが思考に奪われ、大脳基底核や小脳が司る「自動歩行プログラム」が阻害されます。足首の固定と無意識の段差計算が疎かになるため、足が意図した高さまで上がらず踏み外す事態に陥るのです。
「筋力不足」という単純なラベルで片付けるのではなく、「神経・感覚・柔軟性の協調運動が阻害されている」という実態を正確に捉え直すことが、根本的な事故防止への第一歩となります。