加瀬亮のキャリアを語る上で欠かせない転換点が、長年所属した芸能事務所「アノレ(ANORE)」からの独立です。浅野忠信の付き人からスタートし、長年同事務所の看板俳優として映画界を駆け抜けてきた彼ですが、2018年4月に個人事務所である「RYO KASE OFFICE(有限会社加瀬亮事務所)」を立ち上げました。この独立劇こそ、彼の出演スタンスを決定づけた重大な分岐点といえます。
大手芸能プロダクションに所属している場合、スポンサー企業やテレビ局との関係性から、本人の意思とは異なる商業的プロジェクトへの参加を余儀なくされるケースが少なくありません。個人事務所への移行により、加瀬は企画の規模やギャランティの額面ではなく、「監督が何を撮ろうとしているのか」「その脚本に妥協はないか」という純粋な芸術的基準だけで仕事を引き受ける裁量権を完全に手に入れました。
この選択の背景には、戸田恵梨香とW主演を務め社会現象となった大ヒットドラマ『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』での強烈な体験があります。加瀬演じる「瀬文煎流」のスキンヘッドと無骨なキャラクターは日本中に認知され、役者としての知名度を爆発的に押し上げました。しかし同時に、街を歩けば役名で呼ばれ、ステレオタイプなイメージを求められる消耗戦も味わうことになります。公の場のトークセッションでも「瀬文役の反響には感謝しているが、役の残像が強くなりすぎることへの恐怖もあった」と吐露していました。この大成功による狂騒を通過したからこそ、大衆迎合から芸術性の追求へと舵を切る決断が下されたのです。