高次脳機能障害の支援現場を取材すると、当事者たちが直面する最大の壁は「外見上は普通に見えることによる周囲の無理解」です。厚生労働省や支援団体の相談窓口、リハビリテーション専門病院の現場には、切実な証言が寄せられています。
ある50代の会社員男性は、軽微な脳梗塞を発症した後の復職面談で「ペンを持って契約書に名前を書こうとした瞬間、自分の名前の漢字のパーツがバラバラになり、一画目すら動かせなくなった。周囲からは緊張しているだけだと思われ、怠慢を疑われた」と手記に綴っています。また、家庭内でも「『醤油をとって、そこを右』と言われても右がどちらか分からず固まってしまい、家族から『ふざけないで』と怒鳴られた」という孤立の訴えが少なくありません。
さらに見過ごせないのが、小児期に見られる発達性ゲルストマン症候群の存在です。脳の器質的梗塞ではなく、神経発達のアンバランスによって生じる病態であり、知能検査(WISC等)で全般的な遅れがないにもかかわらず、算数の筆算だけが壊滅的にできない、靴の左右を履き間違え続ける、鉛筆を正しく持てず文字が鏡文字になる、といった症状が顕在化します。
学校教育の現場では「勉強嫌い」「努力不足」「落ち着きがない」と誤認され、叱責を繰り返された子どもが自己肯定感を著しく低下させ、二次障害として不登校やうつ状態に陥るケースが後を絶ちません。教員や保護者が「局所的な認知のアンバランス」に気付けるかどうかが、その後の発達軌道を決定づけます。