日本語には「もり」と読む漢字として「森」のほかに「杜」が存在します。文学作品や歴史的文書、あるいは地名などで見かけるこの「杜」は、自然環境に対して日本人が抱いてきた精神性と深く結びついています。
「杜」という漢字は、本来は「ふさぐ」「とどめる」という意味を持ちますが、日本においては神道文化と融合し、「鎮守の杜(ちんじゅのもり)」に代表される神社境内の神聖な木立を指すようになりました。古来、日本人は森の巨木や鬱蒼とした山林に神霊が宿ると信じ(神奈備・神籬)、社殿を取り囲む樹林を不可侵の聖域として保護してきました。これが「杜」です。
自然のままに生い茂る広大な「自然林(森)」とは異なり、「杜」は神事を守るために人為的な立ち入りが厳格に禁じられつつも、氏子や神職の手で保全されてきた「信仰の空間」です。今日でも、神社周辺の緑地や歴史ある庭園に対して「森」ではなく「杜」の字を充てるのは、そこに人間と神聖な自然との特別な契約関係が存在しているからです。